別れと再会 厚沢部~札幌 6月27日(火)

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有珠山サービスエリアから見える有珠山

 長逗留(とうりゅう)のお礼を言い、これから先の安全運転を誓って午前10時ごろ、友人夫婦に見送られて厚沢部町館町を出発した。札幌を目指す。

 

 道を間違えないよう前夜、道道67号までの道路の略図を書いてもらっていたし、滞在中に何度も車で走っていた。昨日の夕方は歩いて最初の曲り角を確認していたから、「大丈夫」と胸を張って出た。

 

 ところが、しばらくして「畑の景色が違う」と感じ、でも方向は間違っていない、と走っているうち国道227号に突き当たった。標識はなく、人もいない。右か、左か。考えたすえ左折し、道道に出られた時はほっとした。

 

 国道5号に出て、八雲ICから道央道に乗る。正午近くになり、静狩PAで小休止し、もうひとっ走りして有珠山SAで昼食休憩。走ってきた方向に有珠山、その右に小さく昭和新山が見えた。あとは北広島ICで下り、国道36号を札幌へ向かい、4時前にホテルに着くまで休みなく走った。

 

 ホテルも駐車場も8日前と同じ所。ホテルの部屋に荷物を置いて間もなく、「もうお友達が来ているよ」と、聞き覚えのある男性の声で電話があった。ホテルの1階角で「酒バー かまえ」を営むマスターからだ。

 

 シャワーを浴びるのは後回し。店へ急ぐと前回来てくれた友人がこの日も来てくれていた。彼と私の共通の飲み友達の姿もあった。趣味のイラストは退職後の今も描いているが、馬券はもう買っていないと話した。

 

 痛風の禁を破り、マスターのふるさと大分の地酒をグラスで5杯は飲んだように思う。10時近くまで居座った。

 

 この日の走行距離は308キロ。

パノラマ景観競争 きじひき高原と城岱牧場 6月26日(月)

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北斗市・きじひき高原から駒ケ岳、大沼方向を望む


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七飯町の城岱牧場から函館山方向を望む


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水道管を利用したとされる西ききょう温泉の浴槽

 

 厚沢部滞在最後の日は朝から好天に恵まれた。友人は「今日ならきれいに見える」と北斗市の「きじひき高原」と、展望のよさを競う七飯町の「城岱(しろたい)牧場」に車で連れていってくれると言う。

 

 前回(21日)と同じく国道227号の北斗市市街側の入り口から上る。その手前にも出入り口はあるが通行止めになっているためだ。新緑の中を快適に走る。メロディーロード走行中はこの前よりも耳に神経を集中したのに、曲をうまく聞き取れなかった。

 

 きじひき高原は標高560メートル。パノラマ展望台からの景色は想像以上に素晴らしかった。眼下に大野平野が広がり、薄く青い函館湾の先にぽっかり浮かぶ函館山。大沼小沼は複雑な曲線を見せて水をたたえ、駒ケ岳がなだらかな稜線を広げていた。

 

 「あれが新幹線の線路」と教えられた指の先に、大きな弧を描く高架橋が見えた。弧の先端が現在の終起点駅の新函館北斗駅。この高原が、鉄道写真を撮り歩く「撮り鉄」の人気スポットになっているという。

 

 来た道を少し上ると「噴火湾眺望台」。緑一色の雄大な高原の向こうに駒ケ岳と噴火湾が見えた。

 

 国道まで戻り、函館新道(国道5号)へ。七飯本町ICから、大沼方面につながる城岱スカイラインを行く。舗装はされているが、道幅は広くなく、急勾配、急カーブが続く峠道。展望台までは約10分。

 

 城岱牧場展望台はコンクリート打ち放し風の建物で、標高はパノラマ展望台とほぼ同じ550メートル。地図を見ると、緯度もほとんど変わらない。函館山が真南に近い分、心持ち大きく見える。南西に大野平野を一望できる。

 

 展望台の下の道路に出ると、種の違うたくさんの乳牛が牧場で草を食べていて、私が近づくと一斉に視線を向けてきたり、牧柵沿いにのそりとついてくる牛もいたりして、思わず声をかけた。

 

 スカイラインを大沼方面に下り、軍川(いくさがわ)で大沼黒毛和牛のレストランに入った。一本丸太を削った腰掛け、無垢(むく)の木のテーブルがずらっと並ぶ店内。昔と変わっておらず、懐かしい。友人夫婦は仲良くビーフカレーを、私はこの日も痛風を恐れずステーキ重定食(2200円)を注文した。体によくないものは、うまい。

 

 帰り道、函館市西桔梗町の「西ききょう温泉」(大人420円)に寄った。地味で小さな施設だが、浴槽がユニークだ。すべて直径2メートルほどの円形。内湯に3つ、露天に3つある。すべて水道管(ヒューム管)を輪切りにしたものだという。

 

 湯は、源泉の温度が60度以上あるため地下水で温度を下げての源泉かけ流し。浴槽によって温度が違う。温泉成分は長い年月をかけて、焼き物の釉薬(ゆうやく)のように湯船の縁や洗い場に固着して名湯・秘湯のたたずまいを醸し出している。風呂場は内も外も、年配の人たちでにぎわっていた。

 

 友人宅での最後の晩餐(ばんさん)に、湿っぽさはなかったように思う。明日からの旅支度に追われた。

ぐるり亀田半島 国宝土偶~大沼 6月25日(日)2の2

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約3500年前の縄文時代の墓から出土した国宝「中空土偶


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駒ケ岳神社と大岩。隠れたパワースポットになっているようだ

 

 箱館奉行所の見学が終わり、吉野家で朝食を食べてから「道の駅なとわ・えさん」へ。駐車場横のキャンプ場には色とりどりのテントが張られていた。売店で土産用にがさばらない昆布の加工品とギンナンソウを買った。

 

 次に目指したのが国宝「中空土偶」のある函館市縄文文化交流センター(観覧料一般300円)。中空土偶は函館と合併する前の南茅部町の縄文遺跡から出土し、2007年に北海道初の国宝に指定された。

 

 実物を見たいと強く思うようになったのは、私の住む西東京市にある縄文時代中期(約5千~4千年前)の下野谷(したのや)遺跡が2年前に「遺跡の国宝」とも言うべき国指定の史跡になったためだ。長野県茅野市で対面した「縄文のビーナス」「仮面の女神」の2体の国宝土偶の姿かたちも頭から離れなかった。

 

 中空土偶はケースに収まり、身長40センチ余り。上からの弱い光を浴び、上半身がつややかに見える。内部は空洞で頭から脚先まで薄く精巧に作られているという。レプリカでよいから手に持ってみたいものだ。

 

 顔や体の文様にも触りたい衝動にかられる。横や後ろ、斜め上からも写真(フラッシュ禁止)を撮ることで我慢した。センターの図録(500円)も購入。

 

 車は隣の鹿部町に入る。間欠泉(入園料大人300円)は昔、無料公開のときに訪れており、今日は小休止にとどめた。国道278号から道道43号に曲がり、大沼へ向かう。

 

 温泉好きの友人が「ひと浴びしたい」と言う旅館留の湯(とめのゆ)は残念ながら改装中。カフェ兼ギャラリーでソフトクリームを食べ、大沼周辺の自然の四季を切り取った写真展(無料)を見た。

 

 大沼での目当ては北岸にある「駒ケ岳神社の大岩」で、私がネットで見つけた。その記事によると、大岩は1640(寛永17)年の駒ケ岳の大噴火で落下した石や火山灰が溶け合ってでき、真ん中にできた割れ目のトンネルを通り抜けると登山の安全や安産、家内安全などがかなえられるパワースポットとして人気があるという。

 

 標識が小さくて見えにくいこともあり、いったん通り過ぎるなど到着に手間取った。巨岩にはしめ縄が巡らされ、割れ目の入り口から出口まで通路の両脇にロープを張って伝い歩きできるようになっていた。私たちが通り抜けた後、観光らしい若い女性2人が来て、割れ目に入っていった。

 

 大沼と小沼を分ける道から国道5号に出て午後4時半、函館の弓道場に着き奥さんと合流。夫婦が「安くておいしい」と薦める回転ずし「魚べい」へ。痛風の体にはよからぬウニも「東京のウニと味が違うから」と勧められるまま食べた。本当においしかった。

ぐるり亀田半島 函館・五稜郭 6月25日(日)2の1

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函館・五稜郭タワーの展望台から見た星形の洋式城郭と函館市街地


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日本古来の建築技法で復元された箱館奉行所

 

 厚沢部滞在中に「ぜひ見たい」と希望していたものがある。函館勤務時代にはまだ建設されていなかった五稜郭公園の「箱館奉行所」と、当時の南茅部町から出土した国宝「中空土偶」だ。

 

 午前7時半に車で出発。函館市千代台公園弓道場で師範の奥さんを降ろし、五稜郭公園の有料駐車場に入る。

 

 五稜郭タワーは、星形五角形の城郭の特別史跡五稜郭を90メートルの高さから眺望できる施設。展望料金は一般900円。旧タワーに代わり2006年に開設されてから上ったことがなかった。

 

 9時前なのに観光客がエレベーター前に列をつくり、2回待ちの状態。展望2階で、アメリカ艦隊の函館来航から五稜郭の築造、函館戦争の終結までの出来事を16場面のジオラマなどにまとめた「歴史回廊」などを見た。箱館奉行所は星形の城郭の真ん中にポツンと見えた。

 

 箱館奉行所は2010年に全体の3分の1の部分が復元された。入館料は一般500円。こちらは並ばずに入れた。

 

 4つの部屋からなる大広間の一番奥で、かつらにかみしも、髪飾りに打ち掛けの男女が記念撮影に収まるところだった。自分のカメラで撮ってもらうが、入館料を払うだけでよく、予約も不要。ただし、たまたま月1回のサービス事業の日とわかった。

 

 館内で最も広い45畳の御役所調役(しらべやく)の執務室の天井は一部が開いていて、太く長いマツが梁(はり)に使われ、瓦ぶき屋根を支えていることが説明されていた。

 

 パネルや史料で奉行所五稜郭箱館戦争の歴史や人物が解説されている。映像シアターでは宮大工や瓦・左官・建具などの匠(たくみ)の技による復元工事の様子に見入った。

 

青森・たらポッキ温泉 6月24日(木)

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珍味商品と同じ名前の日帰り温泉施設「たらポッキ」=青森市

 旅館「正観湯温泉」のブログに載せるからと、玄関前でバイクと一緒に記念写真に収まり午前9時、出発。友人は、この日の目的地はただ1カ所「タラポッキ温泉」だと言う。アイヌ語なのだろうか、奇妙キテレツな音感の名称。

 

 国道7号を青森に向かってひた走る。浪岡町から青森市に入ると間もなく右に分岐する県道247号へ。右手に奥羽本線が並行し、鶴ヶ坂駅を過ぎると、道路に面したおしゃれな建物が現れる。看板から正しい表記は「たらポッキ温泉」だとわかる。

 

 地元の食品メーカー三幸食品が工業用水を求めてボーリングしたところ温泉が湧出し、日帰り入浴施設にしたのだそうだ。たらポッキはチーズを延ばしたタラで挟んだ、同社の代表的な珍味製品の名前。各種珍味が休憩室の売店で販売されていた。入浴料金は大人420円。

 

 友人は正観湯温泉に入っても必ずここに立ち寄り、「今、イチ押しの温泉」と言うほどのお気に入り。温泉評論家と言ってよいくらい温泉地や泉質に詳しい友人だが、私はどこに行ってもただただ心地よさに身をゆだねて終わり、評価を語れない自分が悲しくなる。

 

 湯上りのほてった体に強い日差しを浴び、2人ともジャケットを脱いだ。Tシャツ姿で青森港へ。青森駅前の食堂でみそ煮込みうどん(780円)を頼んだが、味がいま一つ。めったにないことに食べ残した。

 

 函館に帰るフェリーは午後2時20分発。来る時と同じブルーマーメイド号だ。出航して40分ほど後、デッキに出ていると、航跡の左に船を追いかけるようにジャンプするイルカの群れが見えた。残念なことにカメラを携えておらず、デッキに誰もいなかったので興奮を共にすることもできなかった。

 

 船内に戻り、案内カウンターの乗務員に話をすると、「いつも見られるわけではないですよ」と幸運を喜んでくれた。

 

 函館港では午後6時すぎに下船。厚沢部への帰路の途中から雨が降ってきた。追い越し禁止の道を、車が制限速度をかなり超えて追い越していく。友人も大排気量のパワーを自在に操り、見えなくなった。ついていけず、平常心が少し乱れた。

 

 この日の走行距離は110キロ。

青森 鶴の舞橋~大鰐の霊湯 6月23日(金)

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長さ300メートルと木製の橋では国内最長の「鶴の舞橋」。後方は岩木山


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ライダー割引がある青森県大鰐町の正観湯温泉旅館

 

 午前6時、奥さんに見送られ、私と友人のバイクが友人宅をスタート。青森方面に1泊か2泊でツーリングをすることにしていたが、前夜に青森地方の天気予報を見て決行した。私はノープランなので「後ろについていきます」と、まったくのあなた任せ。

 

 日中でも交通量の少ない田舎の道は、早朝ならなおさら。ただ、霧がかかり路面が濡れているので、快適なスピード走行とはいかない。

 

 7時前に函館港の津軽海峡フェリー乗り場に着いた。すぐ乗船手続きをとる。7時40分発、ブルーマーメイド号はスタンダード室、バイク共で6100円。

 

 バイク置き場には岩手・久慈ナンバーのスーパーカブが先着していた。両脇にパニアケース、荷台に釣り用の大型クーラーボックスと収納ケースを積み、貼り紙に「日本一周」と書いてあった。

 

 青森までは3時間40分の船旅。客室には私たち2人と若者1人しかいなかった。ごろ寝をしたりデッキに出たりしているうちに到着。

 

 青森といえば定番の煮干しだしの老舗ラーメン店「まるかい」に入った。建物は昨年新しくなったが、メニューは昔のまま中盛りと大盛りしか選択肢がない。正午になると、どっと客が増え、追い立てられるように店を出た。

 

 青森から国道7号を下り、津軽自動車道に入って五所川原市内で下りた。岩木山を目標に田んぼの中の道を迷いながら走り、鶴田町の名所「鶴の舞橋」に着いた。

 

 鶴の舞橋は木の橋では日本一長いという。総ヒバ造り、300メートル。言われれば、つがいのツルが翼を重ねて舞うように見える。橋の架かるため池は津軽富士見湖とも呼ばれ、岩木山を水面に映す。暑い日差しの下で橋を往復し、数あるフルーツソフトクリーム(各450円)の中からマンゴーを選んで食べた。

 

 午後2時半すぎ、池を後にして国道339号、国道7号を南下。大鰐温泉方面を示す標識をいくつかやり過ごし、長峰地区から国道454号に入って間もなくの所に「霊湯 正観湯(しょうかんとう)温泉」はあった。ここまで1時間20分、休憩なしで走り、午後4時前に到着。

 

 友人が「青森で泊まるときはここ」と言うなじみの宿。宿泊料金にライダー割引がある。オーナーの「あんちゃん」、弟で板前の「まっちゃん」ともバイク乗り。到着時または夕食時に生ビール1杯目が無料サービスされ、さっそく1杯いただいた。

 

 夕食の時、話が弾み、あんちゃんが「これ、サービスしちゃう」と福島の純米吟醸酒の四合瓶を持ち出してきた。あらかた私が飲み干した。翌朝、請求書に付いていなかったのは言うまでもない。

 

 この日の走行距離は170キロ。

 

江差いにしえ街道~乙部の海の幸 6月22日(木)

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神大神宮の境内で泳ぐ「ニシンのぼり」


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乙部漁港の岸壁にある漁師の生鮮魚介直売所

 

 道南・厚沢部(あっさぶ)の友人宅滞在2日目もご夫婦と一緒にドライブ。江差町の昔の街並みを再現した「いにしえ街道」に行き、そこでうまいそばを食べ、乙部(おとべ)漁港で魚や貝の買い出しという大雑把なプランを聞く。どこも未体験ゾーンだ。

 

 朝食後、足寄で買ったラワンブキの加工品や函館のつくだ煮昆布などを詰めた小箱を郵便局に運び、東京・田無の行きつけの飲食店へ送ってからスタート。国道227号を日本海へ向かう。

 

 国道の左脇に、いにしえ街道に入る「中歌口」の標柱があり、入るとすぐ国道と並行して街道が延びている。

 

 見物よりも、まず昼食。「そば蔵やぶげん」は100年以上前の土蔵を改装した店で、町内産のソバを石うすでひいた手打ちそば。午前11時、ちょうどのれんが出るところだったが、すでに若い男性客が1人、カウンター席に座っていた。やまかけを頼むと、だしでのばした山芋がそばを覆い隠したどんぶりが出てきた。

 

 ニシン景気や北前船による交易で栄え、「江差の五月は江戸にもない」とうたわれたまちの歴史的建造物を今に伝える街道は1キロ余り続く。私たちはそば店から先、姥神(うばがみ)大神宮と江戸時代からの大商家・横山家までの数百メートルを往復して商家や町家を眺め、店の中をのぞいて歩いた。

 

 街道に観光客の姿はほとんど見られず、姥神大神宮も閑散。境内の入り口の左右に立つポールの先で、大漁祈願の「にしんのぼり」が風に泳ぐ。保存樹木のマサキの標識には「樹齢400年」と記されていた。

 

 車は国道を戻る。北上するとそのまま229号になる。いにしえ街道中歌口を出て30分ほどで乙部漁港に到着。イカ釣り船が係留された岸壁の近くに「泰安丸直売所」があった。

 

 貝やエビを入れたいけすが並ぶ。私は痛風のタブーを完全に取り払い、エゾバカガイ、ホッキ、カキをリクエスト。友人はホヤ、ウニを追加した。

 

 さらにこの後、地元のスーパー「ブンテン」でイカを買い足した。夜、奥さんが刺し身や蒸しものに腕をふるってくれて超豪華な宴会となった。