【域外】シニア男子6人組の青森旅日記(2)奥入瀬渓流を行く

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標高900メートル余りの高地にある酸ケ湯温泉。宿の夜具は羽毛の掛け布団1枚だった。未明に目が覚め、トイレへ立った。室温は17度台で真冬の東京のマンション並み。しばらく寝つけなかった。
 
朝風呂に入り、午前6時半からの朝食会場にはわれらが一番乗り。バイキング形式で、品数は多いとは言えない。
 
当初はJRバスで石ヶ戸まで行く予定だったが、バス待ちで個人タクシーの運転手さんと話しているうちに、タクシー1台に3人乗車ならば1人バス運賃に少し上乗せした額で行ってくれると言う。ガイドはしてもらえるし、途中、今晩泊まる蔦温泉に大きな荷物を預ける時間を気にしなくてすむから、迷わず計画を変更することにした。
 
もう1台が間もなく来た。私たちの運転手さんは津軽弁を交え、奥入瀬のガイドはもちろん業界の内情までほとんど休みなく話した。どこまでも続くブナ林は雨上がりの直後とあってか、まるで春の若葉の森のように明るかった。運転手さんが「この辺は二次林で」と学術的な説明をしたのには感心した。
 
 石ヶ戸から十和田湖のほとり、子(ね)の口まで約10キロ。3人が体調に不安を抱えていたが、不調を訴える者なく無事走破した。木々は紅葉にほど遠かったものの、数多くの滝を眺めたり、ゆったりと、あるいは荒々しく表情を変える水の流れを見やったりしながら、おいしい空気を体中に取り込んだ。
 
 正午ごろ、にわか雨が上がり、玉簾(たまだれ)の滝近くの遊歩道わきにこけむしたテーブルとベンチを見つけた。旅館に作ってもらった弁当を広げて立ち食いをした。腹ごしらえは済んだのに、ここから先は口数がめっきり少なくなった。銚子大滝で「あと少し」と元気づき、子の口で十和田湖が視界に広がると皆、達成感に表情を輝かせた。JRバス駅舎の売店では、そろってソフトクリームに舌鼓を打つのだった。
 
 3時間かけて歩いてきた道もバスで引き返すと、石ヶ戸まで20分。その先、蔦温泉までは10分だった。観光地らしく、路線バスでも滝などの見どころで停車してくれるサービス付き。
 
 蔦温泉も酸ケ湯と同じ一軒宿。正面の本館はこの冬を越せないほど老朽化が進んだとかで、ブルーシートに囲まれていた。宿泊する西館から東側の浴場へは外を20メートル余り歩いていくことになる。宿泊手続きのとき、翌日の朝食券を部屋別に2枚もらったが、翌朝になって1枚が見当たらず、ちょっとした騒ぎになった。朝食券はとうとう最後まで見つからなかった。
 
 湯は無色透明で熱め。奥入瀬ウオーキングの疲れをゆっくりと癒やした。
 
夕食の献立は前夜よりもかなりの豪華版。旅の最後の夜との理由も付けて、1人を除いて地酒の原酒とウイスキーボトルを取った。
大学で「履修生」として仏教の勉強を続けているF君が最近、先生や本物の学生たちと一緒にインドとスリランカを訪れたということで、この旅行中に話を聞いてみるかとの流れになっていた。食事の席でも「ぜひ聞きたい」という少数派と「聞いてやってもいい」との多数派に分かれたが、食後に部屋で報告会を開くことが最終的に決まった。
 
F君は、先生に提出するのだという1200字の感想文と現地で撮影した写真8枚を1枚に収めたA4判2枚閉じの資料を人数分、周到に準備していた。しかし、発表者の熱意と聴衆の関心は往々にして別物。文章構成や表現方法を含めてF君がタジタジとなるシーンは多く、そのせいか翌朝のF君は「腹の調子が良くない」とバイキングで選んだ少しのおかずさえも残す始末だった。そして、この論戦は翌日の帰途の新幹線で再燃し、いったん解散する大宮到着まで続くのであった。この旅で最大の話題提供者がF君であることに異論を唱える仲間はいないはずだ。