厚沢部滞在最後の日は朝から好天に恵まれた。友人は「今日ならきれいに見える」と北斗市の「きじひき高原」と、展望のよさを競う七飯町の「城岱(しろたい)牧場」に車で連れていってくれると言う。
前回(21日)と同じく国道227号の北斗市市街側の入り口から上る。その手前にも出入り口はあるが通行止めになっているためだ。新緑の中を快適に走る。メロディーロード走行中はこの前よりも耳に神経を集中したのに、曲をうまく聞き取れなかった。
きじひき高原は標高560メートル。パノラマ展望台からの景色は想像以上に素晴らしかった。眼下に大野平野が広がり、薄く青い函館湾の先にぽっかり浮かぶ函館山。大沼小沼は複雑な曲線を見せて水をたたえ、駒ケ岳がなだらかな稜線を広げていた。
「あれが新幹線の線路」と教えられた指の先に、大きな弧を描く高架橋が見えた。弧の先端が現在の終起点駅の新函館北斗駅。この高原が、鉄道写真を撮り歩く「撮り鉄」の人気スポットになっているという。
来た道を少し上ると「噴火湾眺望台」。緑一色の雄大な高原の向こうに駒ケ岳と噴火湾が見えた。
国道まで戻り、函館新道(国道5号)へ。七飯本町ICから、大沼方面につながる城岱スカイラインを行く。舗装はされているが、道幅は広くなく、急勾配、急カーブが続く峠道。展望台までは約10分。
城岱牧場展望台はコンクリート打ち放し風の建物で、標高はパノラマ展望台とほぼ同じ550メートル。地図を見ると、緯度もほとんど変わらない。函館山が真南に近い分、心持ち大きく見える。南西に大野平野を一望できる。
展望台の下の道路に出ると、種の違うたくさんの乳牛が牧場で草を食べていて、私が近づくと一斉に視線を向けてきたり、牧柵沿いにのそりとついてくる牛もいたりして、思わず声をかけた。
スカイラインを大沼方面に下り、軍川(いくさがわ)で大沼黒毛和牛のレストランに入った。一本丸太を削った腰掛け、無垢(むく)の木のテーブルがずらっと並ぶ店内。昔と変わっておらず、懐かしい。友人夫婦は仲良くビーフカレーを、私はこの日も痛風を恐れずステーキ重定食(2200円)を注文した。体によくないものは、うまい。
帰り道、函館市西桔梗町の「西ききょう温泉」(大人420円)に寄った。地味で小さな施設だが、浴槽がユニークだ。すべて直径2メートルほどの円形。内湯に3つ、露天に3つある。すべて水道管(ヒューム管)を輪切りにしたものだという。
湯は、源泉の温度が60度以上あるため地下水で温度を下げての源泉かけ流し。浴槽によって温度が違う。温泉成分は長い年月をかけて、焼き物の釉薬(ゆうやく)のように湯船の縁や洗い場に固着して名湯・秘湯のたたずまいを醸し出している。風呂場は内も外も、年配の人たちでにぎわっていた。
友人宅での最後の晩餐(ばんさん)に、湿っぽさはなかったように思う。明日からの旅支度に追われた。