映画『羅生門』で京マチ子を見る

 三鷹市の文化団体が企画した映画上映会「惜別、日本の名優。」シリーズ。京マチ子出演の『羅生門』がかかる11月20日、同市芸術文化センターへ出向いた。

 

 京マチ子という俳優は、私との巡り合わせがよくなく70年余りの生涯でこの映画でしか見た記憶がない。それも、何年か前に羅生門がテレビで放映されたときに。

 

 今回は、彼女の演技だけでなく、黒澤明監督の名を世界に知らしめた作品全体を大きなスクリーンでしっかりと見るつもりだった。

 

 黒澤明羅生門については内外の評論家が深く考察しているので、気まぐれな一映画好きが論じる余地はない。ただ、一つの事件に被害者と加害者が3人いて3様の物語がつくり出されるシーンは一番の見どころだ。

 

 それは語り手それぞれのエゴイズムや虚栄心のなせる業。はた目にどれが真実かわからない。原作のタイトルどおり『藪の中』だ。そんな物語が迫真の演技で畳みかけられ、スクリーンに全集中した。

 

 三船敏郎は、モノクローム映像のせいとは思えないほど歯が白い。歯並びの美しさにも驚かされた。だが高笑いは距離感以上に大きく、セリフは聞き取りにくかった。雨音とBGMも音量が大きすぎると感じた。

 

 京は、顔にいくつもの汗の粒を浮かせての熱演が印象深い。1950年の本作公開時に26歳であったことや原節子の代役だったこと、自ら眉をそって撮影に臨んだことなどは入場時にもらったチラシの「こぼれ話」で知った。『雨月物語』や『地獄変』も見たいものだ。