浄土真宗の宗祖・親鸞はなぜ日本人に人気なのか。1月9日、武蔵野大学が聴講無料で開いている日曜講演会で、碧海寿広(おおみとしひろ)教養教育部准教授が「親鸞と近代」と題して話した。
碧海氏の専門は近代仏教研究。日本社会を揺るがせた明治維新と廃仏毀釈(きしゃく)が仏教への信仰をやせ細らせる契機になったという。一方で仏像や寺院建築を中心に文化財保護も始まった。
仏教界の復興に大きな影響を与えたのは士族の出で真宗僧侶になった清沢満之(きよざわまんし)。自力的な修行に挫折して他力に目覚め、新たな仏教思想・運動を立ち上げた。「絶対他力」という考え方は清沢とその弟子たちが言い出した。特に暁烏敏(あけがらすはや)が『歎異鈔講話』などで強調。
歎異抄は、近代以降の日本人が親鸞を知る最大の入り口となった。親鸞には主著『教行信証』があるが、弟子の唯円が師の教えを聞き書きした歎異抄の方が多くの人に読まれている。
碧海氏は『親鸞』の著書がある作家五木寛之の言を借りて、「周りでまとめた本の方が本質を突いている」。絶対他力や悪人正機といった思想をシンプルに学べるという。
また師弟問答(対話)がベースなのでわかりやすく、弟子入りした感覚で読めることや、唯円の文章のうまさも指摘した。
歎異抄を原典とした倉田百三の戯曲『出家とその弟子』も大正・昭和期によく読まれ、親鸞ブームを決定づけた一冊だという。
作品は純朴な青年の唯円と親鸞の息子なのに堕落した若者善鸞との対比や友情を描く。恋愛などの悩み、「信じない」人間も含み込んだ宗教の物語は、同じような境遇にある教養青年が強く共感しやすかったと分析する。
しかし、最近は大手出版社の文化担当者がこの作品を知らない現実に直面。「『信じることはできないけど仏教には何かあるのではないか』という人さえもいなくなっているのかもしれない」と厳しい見方を示し、仏教や親鸞の教えをどうしたら現代につないでいけるかが「自分にとって大きな課題」と述べた。