講談の面白さ全開 神田伯山独演会

 神田伯山独演会が2月6日、三鷹市公会堂であり、人気講談師を初めて生で見た。往復はがきで申し込み、抽選でチケットが取れた。各地の独演会のチラシで「講談界の風雲児」「最もチケットが取れない講談師」とうたわれることが多く、今回のものには「講談の大地を切り開き続けるフロンティア」。

 

 開口一番は前座の神田紅希(こうき)の『真田幸村大坂出陣』。伯山はマクラで紅希を「芸大卒で作曲家」と紹介。自身については、1月にコロナ禍を押して「91席やった」とエネルギッシュなところを見せた。

 

 1席目は「古典のラブストーリー」という『大名花屋』。一人娘に語りかける一言一言、火事でのうろたえ、妻の目配せへの反応など、父親の愛情が名人の落語を思わせる語りとパフォーマンスで表現され、胸が熱くなった。

 

 客が良いと同じ演目でも時間が長くなるとマクラで語っていて、「20分くらい」の予告が「28分になった」と律儀に報告。芸の責任をおろそかにしない人。

 2席目は『浜野矩随(のりゆき)』。彫り物名人の父の後を継いだ一人息子は不器用で駄作ばかりだったが、母の命がけの励ましに応え見事な観音像を彫り上げて名人と称されるようになる。

 

 本編を読み上げ、「(林家)三平師匠にささげる一席」と締めくくって客席を沸かせた。この伏線はマクラで語られており、伯山が大学卒業を間近にして脳腫瘍の疑いが持ち上がり、不安の中で初代林家三平の落語『浜野矩随』を聴き、「これが最後の落語か」の思いもあって号泣した。

 

 検査を受けた2週間後、なんの異常もないことがわかり、寄席に行ったところ、またしても三平の『矩随』がかかっていた。そしてそれは「おもしろくもなんともなかった」。

 

 伯山はこのことから「お客様の気持ちで演芸は左右される」との哲理を語った。しかし、昨年末でテレビの人気演芸番組のレギュラーを降板した二代目三平師匠を叱咤(しった)激励するオチではなかったか、と私には思えるのだ。

 中入り後は『寛永宮本武蔵伝』全17席のうち、終わりの3席を語った。鎖鎌を操る武術家との戦い、町人から佐々木小次郎の動静を聞く下関の船宿、そして巌流島の決闘で大団円。

 

 張り扇(はりせん)で釈台をたたいて調子を取り、上半身をこれでもかと躍動させる一人活劇に見ている側も力が入る。それでいて武蔵がピヨ-ンと飛び上がる漫画的な飛び切りの術を繰り出したり、武蔵と小次郎の決闘を見たくて仕方がない殿様が登場したりと笑える場面も織り込まれている。

 

 伯山は「連続ものが醍醐味(だいごみ)」と話した。「次はどうなる」とワクワクさせて1席を終える寛永宮本武蔵伝はその代表作の1つに違いなく、3席、約50分間ではあったが、面白さを十分味わわせてもらった。