大英博物館から来た「北斎」 晩年の優品ずらり

「神奈川沖浪裏」を撮影する入館者

 江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849)の優れた作品を多数所蔵する大英博物館から借り受け、北斎が還暦の60歳から亡くなる90歳までの晩年に焦点を当てたという展覧会「大英博物館 北斎-国内の肉筆画の名品とともに―」(6月12日まで)を5月21日、東京・六本木のサントリー美術館で見た。

 

 入室してすぐ目に入るのは赤富士で有名な「冨嶽三十六景」の「凱風(がいふう)快晴」。輪郭線の状態の良さから初摺(しょずり)に近く、最も抽象化された富士という。山肌の色も「暗い赤茶色」が正しい表現と知る。

 

 この作品はイヤホンガイドの1番目だが、展示の構成(全6章)では2番目の「富士と大波」に入るので、順路との違いにやや戸惑う。作品番号の順でなく階下の室に展示されたものもいくつかある。

 

 「富士と大波」のコーナーでは「神奈川沖浪裏(なみうら)」を写真撮影することができる。19世紀後半の西洋美術のジャポニズムに影響を与えたことで知られ、カメラやスマートフォンを向ける人が続いた。

 

 写真撮影は「為朝図」にも許されていた。怪力の源為朝の大弓を男たちが引くのに苦労している場面を、金の切箔(きりはく)を使い、濃密な彩色で描く。最も手の込んだ作品の一つとされ、輸入顔料のプルシアンブルーの濃淡で波の立体感を出した「神奈川沖浪裏」との対照が面白い。

 

 ほかにも、北斎が橋の構造や造形に関心を持っていたという解説が納得できる「諸國名橋奇覧」、江戸の風物に置き換えたりして、うばが百人一首の歌意を絵で解説する「百人一首うばがゑとき」、怪談を題材とした「百物語」の幽霊など森羅万象を超えるものまで、100点余りの作品に北斎の世界を楽しんだ。

 

 新型コロナ感染対策の「リバウンド警戒期間」が翌日に終わることや、土曜日の東京ミッドタウンにある美術館とあって若いカップルら入館者は多く、うっかりすると肩が触れ合うほどだった。