聴かせてもらった70分「九州吹き戻し」 談春独演会

 立川談春独演会が7月2日、三鷹市公会堂であった。談志門下だから、けんかを売るのが好きみたい。

 

 1席目は「平和の噺(はなし)」と前置きして『棒鱈(ぼうだら)』に入ったが、それまでは新型コロナでマスク着用やワクチン接種に不要論と聞こえるきわどい主張を展開したり、ロシアのウクライナ侵攻、落語団体の方向性の違いなどを語ったりして、ちっとも「平和」じゃない。

 

  と怒ってしまっては談春の思うつぼ。何事にも裏と表があり、戦争と平和も表裏の関係さとでも言いたかったのではあるまいか。

 

 ましてや噺家の主張なのだから、聞いて楽しむ度量がなくては。コショウ(故障)が入ってけんかが収まる演目のように。

 

 マクラの方が本編より長いという前半とは打って変わって、中入り後の2席目は「長い噺」と断りを入れた。おまけに「睡魔に襲われても逆らわず、子守歌代わりにして」と口調は優しいが、挑戦的な姿勢がありあり。

 

 笑うところはないし、サゲもわりとそっけない70分だったが、噺に引き込まれ、熱演の嵐に翻弄(ほんろう)された。

 

 これが『九州の吹き戻し』という演目であることを初めて知った。なんて現代的なタイトル。でも古典だという。

 

 あとで調べたら、談志の弟子の中では談春しか手掛けていなかったというではないか(2019年2月に談笑が初披露)。単純だから難しく、退屈な噺として終わりかねない演目だそうだ。

 

 演じ終わっても談春は高座を下りなかった。客席と三本締めをしてなお、3列ずつ誘導されて帰る客を、つぶやきとともに最後まで見送った。サービス精神全開。話芸だけではない、破格の噺家だ。