にこやかな表情で富をもたらしてくれる神様の大黒天が、日本に入った時は怒りの形相だった―。こんなつかみで「大黒天講座」が始まった。
武蔵野大学の生涯学習講座「仏像を見る、考える」の2回目が9月12日、三鷹のサテライト教室であった。先生は同大研究員の生駒哲郎さん。
レジュメに大黒天像の写真はなく、米俵の上に立つ大黒様を描いた別々の神社の開運のお札2枚がコピーされていた。烏帽子(えぼし)をかぶり、狩衣(かりぎぬ)を着て、右手に小槌(こづち)を持ち、宝袋を背負う神様。
この絵の中に仏教世界を表すものがあると生駒さんが問う。答えは宝珠。宝珠は仏そのもので現世利益の象徴。それが1枚は俵の1つずつに、もう1枚は衣服の腹部に描かれていて、どちらも3つ1組になっている。
だが、一方の絵は1つの俵に1つの宝珠しか描かれていない。それはなぜか。実は小槌の表面に宝珠が描かれていたのだ。離れていても線で結べば三角形。宝珠は常に三点セットなのだという。
三点セットは、衆生を救済する阿弥陀如来の脇侍に勢至菩薩と観音菩薩がいる三尊形式を表し、熊野信仰が起源だそうだ。
生駒さんは、宝珠が3つそろっていれば「古来の信仰に基づいた大黒天。宝珠がなければ明治以降と考えてよい」と言い、観察を楽しむよう勧めた。
また大黒天と大国主命(おおくにぬしのみこと)は音が似ていることから神仏習合して神のようになり、日本独自の狩衣(かりぎぬ)をまとう姿になったという。