弁財天と聞けば、七福神の一人で、金銭にご利益がありそうという程度の知識しかなかったが、また興味深い話を聞くことができた。
「仏像を見る、考える」と題した武蔵野大学の生涯学習講座の3回目は10月3日、東京・三鷹市のサテライト教室であり、これが最終回。
まち歩きで寺や神社に立ち寄ると、池のある所に弁財天がまつられていることを思い出した。近くでは井の頭公園。講座では江の島(神奈川県藤沢市)の江島神社所蔵の妙音弁財天像と八臂(はっぴ)弁財天坐像(ざぞう)の解説があった。
配布資料にコピーされた妙音弁財天像は全裸で琵琶を抱える女神。古いお経には「弁舌の神」とされているが、いつしか「歌が上手」となり、ついには琵琶を持つようになったという。音楽や芸事の上達を願う人々の信仰を集める。琵琶を抱える姿は仏典に記述がなく、日本独自のものだそうだ。陰部は座布団で隠している。
八臂とは腕が8本あること。八臂弁財天坐像は右手に剣、左手に宝珠を持つ。このスタイルこそ弁財天の初期のもので、剣は武神を表す。源頼朝が鎌倉幕府を開くとき、奥州藤原氏を滅ぼすことをこの像に祈ったという。
講師の生駒哲郎さんは、「小銭をためたいなら二臂、スポーツなどの試合で勝利を願うなら八臂を」と、見分けを呼びかけた。
奈良・薬師寺所蔵の3種の弁財天像からは「台座が波」「童子15人を連れている」との特徴がわかる。波は、弁財天が元々古代インドの川の神だったことを表す。池の小島や海、川にまつられ、水と密接な関係にある。童子は、善財童子が加わり16人いる方が新しい。
水の神に関連して、深大寺(調布市)所蔵の深沙(じんしゃ)大王像の話にも引き込まれた。深沙大王は西遊記でいえば玄奘三蔵を守った沙悟浄(さごじょう)。日本のカッパに当たり、遠野物語に出てくるカッパよりもはるかに古い。
大王像は深大寺の秘仏とされているが、資料に見る像はどくろを連ねた首飾りを着け、ギョロリと目をむき、大きき口を開いて何か叫んでいるようだ。風神雷神図屏風の雷神のイメージ。
調布市のホームページによると、鎌倉時代中期の作と推定される。深沙大王の彫刻は少なく、生駒さんは「日本で最古かもしれない」という。ご開帳があれば、ぜひ駆け付けて拝観したいものだ。