名優たちの熟成されたコメディー 舞台「ART」

 好きな名優が3人そろって出演するのを知り、6月2日のチケットをネット予約していた。タイトルやストーリーは二の次。イッセー尾形小日向文世大泉洋という顔ぶれで、面白くない芝居であるはずがない。

 

 この日は東京にも大雨警報が出ていた。地元市議会の定例会初日を傍聴し、西武新宿線田無駅から東急田園都市線三軒茶屋駅へ向かった。劇場は三軒茶屋にある世田谷パブリックシアター

 

 三茶は初めて来たので、まず劇場の入るビルを確かめてから、大降りになった雨の中、ランチの店を探した。

 

 あそこで引き返そうと決めた小路の角に「ちゃんぽん」ののれんを認め、ガラス戸越しに客の背中も見えたので迷わず入店。

 

 席はカウンターだけ。それも背中が壁や引き戸にぶつかりそうに狭い。厨房の中は3人。相当高齢の「おやじ」が調理を担っている。人気漫才師らの色紙が飾られ、「これはアタリだな」と思ったが、スープは豚バラのにおいが魚介のそれより強く、ちょっとがっかり。それでも完食した。代金は800円。

 

 劇場に戻ると、開場まで30分以上あるのに当日券の発売を待つ人たちの長い行列ができていた。圧倒的に女性が多い。

 

 入場してわかったことだが、私の席は最上階の3階で、前後2列の後方。ここより後ろはないのだった。前列の女性客はオペラグラスを持参していた。昔、地方の厚生年金会館で歌謡ショーを見たとき、歌手が小指の長さほどだったことを思い出した。

 

 さすがにそのときほど舞台から遠くはなかったけれども、役者の表情は想像力で補うしかなかった。ただ大泉洋が黒縁メガネを外さないのには困った。

 

 物語はフランスの劇作家の傑作コメディーとされる「ART」。世界各地で演劇界の名誉ある賞を受賞したという。チラシの文章からはつかみきれなかったアートとコメディーの関係が舞台を見てよくわかった。個性の異なる仲良し3人組の1人が高額で買った1枚の白い絵(アート)をめぐって湧き上がる誤解とののしり合い、そして――。

 

 同じ顔ぶれで3年前に公演を始めた直後にコロナで中止に追い込まれ、今回の再演。それぞれがはまり役としか言いようがないほどの名演で3人の呼吸もピタリ。1時間30分、ノンストップで展開する。

 

 主張しない性格の役どころの大泉が、自分の結婚式にまつわる母や結婚相手への不満をまくしたてる長ぜりふには驚いた。ある演劇評によると、約5分間に及ぶそうだ。

 

 舞台までの距離は少し遠かったが、役者の熱量は十分伝わってきた。カーテンコールが3度あった。いい芝居を見た。東京公演は11日まで。