
東京・六本木のサントリー美術館で開かれていた「酒呑童子(しゅてんどうじ)ビギンズ」展は6月15日が最終日。前売り券を買っており、転倒による膝の骨折を繰り返して先延ばしにしていたが、もう後はない。座れそうな時間帯の電車や駅のエレベーターの位置を探し、つえをついて出かけた。
鬼は私の子ども心にすみついた。母が読み聞かせてくれた絵本に登場したり、節分の豆まきで「鬼は外」と叫んだり。最近はテレビアニメ「鬼滅の刃」に見入った。
鬼の酒吞童子を世に広めたのがサントリー美術館所蔵の重要文化財・狩野元信筆「酒吞童子絵巻」とされる。平安時代の武将・源頼光と家臣の四天王が鬼の城に入り、毒酒で鬼たちを酔いつぶし、童子の首を討ち取って、さらわれた娘たちを奪還する物語だ。
展覧会タイトルの「ビギンズ」には、室町時代に描かれたこの絵巻が原典となって江戸時代に何百もの類似本が作られたことだけでなく、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したことから酒呑童子が生まれたという「鬼のはじまり」をも描き加えた絵巻が近年発見されている、との意味があるという。
ビギンズの企図は二の次。2年をかけ解体修理した全長66メートルのうち同館史上最大規模の約35メートルまで広げた絵巻の鮮やかな色使い、生き生きとした表情や動きに目を奪われる。ケース上部に掲示された現代語の場面説明を読み、再び目を絵巻に移す。
なんか、子どもに戻ったみたい。人間に化けた酒呑童子は背丈3メートルほど、年齢は40歳くらいと説明文にあったが、原文にも書かれているのかな。童子の顔、あの俳優に似ている。子分の鬼たちは動物の化身らしい風体で、人間とほぼ同じ大きさだったんだ。
鬼のもてなしを受ける討伐隊は血の酒を飲み、人の脚のモモを刀でそぎ落として食べようとしている。豪放というよりはグロテスクな場面。6メートルの大きさに戻った鬼の童子は首を切られ、血しぶきが吹き上がる。吹っ飛んだ童子の頭は頼光の頭にかぶりつくが、神の力を宿すかぶとのおかげで無事だ。
絵巻は上巻が狩野元信、中・下巻は工房の弟子が手がけたとされるが、技量の違いはわかるはずもなく、新しい発見やドキドキ、ハラハラの展開に時間を忘れた。