良質のドキュメント番組を見て、制作者の志を聞いて、テレビ頑張れと強く思った。11月30日、東京・丸の内で開かれた「『地方の時代』映像祭2024 東京上映会」に参加した。
関西大学地域連携センターからのメールで映像祭の存在を知り、参加を申し込んだ。映像祭はNHKや日本民間放送連盟、関西大学などが主催し、在阪の放送各局などが共催。ドキュメンタリー制作は「地域」に焦点を当て、テレビ局だけでなく市民、学生ら一般の人も参加できる。
今年度はコンクール応募320作品から、名古屋テレビ放送制作の「メ~テレドキュメント 掌(て)で空は隠せない~木本(きのもと)事件」がグランプリに選ばれ、関西大学東京センター東京で上映会と制作者らと語り合う会が持たれたのだ。
木本事件とは関東大震災の約2年半後、三重県木本町(現熊野市)で朝鮮人労働者2人が武装した町民の集団に殺害された事件。前日の映画館でのトラブルがきっかけで「朝鮮人が町に火を放つ」とのうわさが流れ、銃や日本刀、とび口で武装した自警団がトンネル工事に携わる朝鮮人の飯場を襲った。
作品は事件を知らなかったり語ろうとしなかったりして風化が進む一方で、事件のことを調べる在日コリアンで出版社編集長や、事件の記憶を後世に伝えようとする人々が描かれる。上映時間は50分。
上映後、映像プロデューサーの橋本佳子さんが進行役を務め、作品制作に当たったテレビ局プロデューサー(リモート出演)とディレクター、出版社編集長が番組を巡り語り合った。
橋本さんは(1)番組が「負の歴史」と向き合ったこと(2)デマや流言飛語にどう対応するか―を大きなテーマにトークを進めたいと問題意識を示した。
朝鮮人差別の負の歴史に関連しては、封じ込めの動きが東京都や群馬県で見られることや、まちづくりを進めるうえで行政は触れたがらない、との指摘があった。
関東大震災での流言飛語を政府が完全否定せず、県紙も「不逞(ふてい)鮮人」という言葉を乱用して朝鮮人虐殺・虐待を生んだが、100年経った今は事実でないことの拡散がSNSによって加速されているとの見方も語られた。
番組の発案者というプロデューサーは「『官製の差別』を理解することが今の危うさを少しでも減らせるのではないかと期待している」と述べた。