平安末期から鎌倉時代を生きた日本を代表する仏師、運慶。その代表作がそろう東京国立博物館の特別展「運慶」(11月26日まで)に合わせ、武蔵野大学の社会連携センターは10月19日、「『運慶』を語る」と題する美術鑑賞講座を同博物館平成館大講堂で開いた。
講師は、日本彫刻史の専門家で運慶ら親子3代の作品を所蔵する奈良・興福寺国宝館館長でもある金子啓明さん=写真。「運慶のまなざし」と題して作例を解説、約200人が聞き入った。
金子さんは、京都・六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)の地蔵菩薩坐像(じぞうぼさつざぞう)(国重要文化財、12世紀)を最初に取り上げ、運慶は目の表現を強く意識していたとして「玉眼(ぎょくがん)」について説明。
一木造(いちぼくづくり)の面を割り、内側から目をくり抜き、水晶の板をはめ込んで彩色するという玉眼によって目に力と生きているかのようなリアリティーを持たせた。切れ長の目は理知的で冷静、強い意志を伝える。運慶自身も地蔵信仰を持っていたという。
興福寺北円堂の国宝「無著・世親菩薩立像(むじゃく・せしんぼさつりゅうぞう)」は、5世紀にインドに実在した兄弟の高僧。像には玉眼が用いられ、「積み重ねられた心の深み」「揺るぎない意志」が写実的に表現されているという。
二人の目の向きの違いは、無著が目の前に救済を求める衆生を見ているのに対し、世親が遠くを見ているのは仏の悟りを目指す意志の表現だと話した。
金子さんは最後に静岡・願成就院(がんじょうじゅいん)の国宝「毘沙門天立像」について、誇張のないたくましさや安定感と躍動感、父康慶の作品との違いなどを指摘。そのうえで、運慶が毘沙門天を武士に重ね、戦火を経て訪れた武家の時代に新しい仏教の世界を守る誓いを表現したとし、「像の視線はすなわち運慶自身のまなざし」と結んだ。
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受講生たちはこの後、午後5時の閉館まで約1時間、運慶の代表作や父康慶、息子湛慶ら親子3代にわたる慶派の仏像を鑑賞した。
出品目録の作品番号が展示の順序と一致していないので、戸惑うことも少なくない。
冷たい雨が降る1日だったが、鑑賞中に立ち止まって押されるなど後続の人に迷惑をかけるほどの混雑ではなかったのがせめてもの救い。
主要作品は露出展示で体を伸ばせば1メートルほどまで接近でき、背中側から拝観できる作品が多い。
音声ガイドを利用して、もう一度、ゆっくり鑑賞し、ショップで展覧会グッズも見たい。(下の写真は左から講演風景、閉館間近の平成館エスカレーター)