手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄など、少年の私を漫画好きにした漫画家たちが、若いころ一緒に住んでいた豊島区南長崎(旧椎名町)のアパート「トキワ荘」ゆかりの地を歩いた。
「笑ゥせぇるすまん」のブラックユーモアが記憶に残る藤子不二雄(A)さんが4月に亡くなったこともあり、5月11日、新聞社主催のガイド付きウオーキングに参加した。
コースは西武池袋線椎名町駅から都営大江戸線落合南長崎駅までの約3キロ。トキワ荘通りお休み処(どころ)、トキワ荘マンガステーション、トキワ荘マンガミュージアムと三つの施設に入った。
お休み処は築94年の米屋を改装して2013年に開設。1階は散策のための情報提供や蔵書の閲覧に使われ、2階にはトキワ荘の若手漫画家のまとめ役だった寺田ヒロオの部屋が再現されている。
3軒隣のステーションはトキワ荘関連の書籍約6千冊を収める図書館。50分ごとの入れ替え制で、本は自由に読める。
そしてトキワ荘の漫画文化を発信し、後世に受け継いでもらう拠点となるのが、トキワ荘を復元したミュージアムだ。南長崎花咲公園の奥に2020年7月、ステーションと同時開館した。
トキワ荘は1952(昭和27)年に棟上げ、翌年に手塚治虫が入居後、上京してきた若い漫画家たちが集まり、計11人が住んだ。老朽化のため82年に解体された。
ミュージアム2階に上がると、当時を再現したトイレと共同炊事場、廊下を挟んで九つの居室が並び、居室の一部には仕事の道具などを置いて実生活をしのばせる。1階はゆかりの漫画本やトキワ荘の屋根を外して2階住人の暮らしぶりを見せるジオラマが展示されていた。
散策コースには椎名町・落合南長崎の両駅舎通路に壁画やモニュメント、漫画家が通った銭湯、喫茶店、映画館跡地などを示すゆかりの地案内板、出版社が建つトキワ荘跡地に石造りのモニュメントなどがあり、退屈しない。
懐古趣味で臨んだまち歩きだが、椎名町駅北口に下りれば古刹(こさつ)金剛院の境内に、ペン先を光背とした「マンガ地蔵」があり、同駅西隣の東長崎駅の駅前交番はトキワ荘の形を模していたと、並ではないまちづくりの熱意も感じた。
「まんがの聖地」をうたった今回のまち歩き。募集20人に対し参加は7人、それも年配者にとどまった。マンガミュージアムでは、若い来訪者を狙い、豊島区が区内のゲーム会社の協力を得て恋愛ゲームブランドの作品展を開催していたが、これを見た参加者の複数が「よくわからなかった」と感想を話した。
トキワ荘育ちの巨匠の作品を愛読した世代は遠からず絶える。新しい漫画・アニメ文化をつくったり支えたりする人へのバトンタッチをどうすれば「聖地」は続きうるのか。ゲーム作品の企画展示はその試行と見た。