柳亭市馬独演会が11月9日、三鷹市芸術文化センターであった。
前半は前座の柳亭市遼(いちりょう)さんが『大どこの犬』を演じ、市馬さんは『粗忽(そこつ)の釘(くぎ)』。大どこの犬はシロ、ブチ、クロの捨てられた3匹の子犬のうちクロを中心にした物語。
もとは上方で演じられた『鴻池の犬』が東京に持ち込まれ、師匠級のネタとなったが、弟子の市遼さんが「やらせてくれ」と言ってきたと市馬さんがマクラで説明した。
マクラでは市馬さんは池袋の寄席で前座で初めて高座に上った時、途中で絶句し、お辞儀するのも忘れて舞台の袖に引っ込んだことを明かした。けいこ不足を叱責されると思いきや、師匠(柳家小さん)は「いい経験したな」と言っただけで自宅2階に上がっていったという。
物忘れやそそっかしい人に悪い人間はいない、というところから本編に入り、言うこと、なすこととんちんかんな大工さんに笑わされる世界へと引き込まれる。
後半は二ツ目の柳亭市好(いちこう)さんが、食通自慢の六さんに腐った豆腐を食べさせる『ちりとてちん』を演じ、市馬さんが『宿屋の富』で締めくくった。
こちらの宿泊客は著名な画人ではなく、間違いなく貧乏人。10日分も宿賃をためているのに、「大名も金を借りに来る」など大うそを連発して大金持ちを装う。そして、なけなしの1文をはたいて買った富くじが…と噺(はなし)の帰結が見え見えでもサゲまで耳目をそらさせない、大満足の高座だった。