「新人作家どう育てる」 三田誠広さん、元編集長と対談

イメージ 1 芥川賞作家で武蔵野大学文学部教授の三田誠広さん=写真右=と元「海燕(かいえん)」編集長の根本昌夫さんとの公開対談が11月15日、武蔵野大であり、聴講の学生を含め約80人が「編集者とは何か」を中心とするやりとりに聞き入った。
 三田さんが芥川賞を受賞(1977年)して数年後、早稲田文学の対談に臨んだとき、根本さんは同文学の編集スタッフだったのが初めての出会い。根本さんは月間文芸雑誌「海燕」(ベネッセ、1996年廃刊)の編集長として吉本ばなな角田光代らをデビューさせた。現在は法政大学講師、カルチャーセンター講師を務める。
 海燕は発刊当初から純文学に軸足を置き、新人文学賞を設けていた。対談では吉本ばなな小川洋子らの応募作をめぐるエピソードや新人の育て方、文学の近況などが語られた。この中で根本さんは候補作品の読み方について「作家が何を書こうとしているか、表現しようとしているかが最重点」と話した。三田さんが新人賞を受賞した作家が他の雑誌にさらわれることはないかと問うと、「今よりマシ。当時は受賞後3作目くらいまでは手を出さないという不文律があった」。
 根本さんは角田光代の原稿を、新人賞受賞の後、1年半ほどボツにしていた。先輩編集者の教えを守り、前の作品より少しでもいいものがないと載せなかったというが、他の人には「載せることで応援することもある」「(作家の力量が)これで精いっぱいと判断して最後に妥協すると、いい結果を生まない」と新人を育てる難しさを明かした。
 対談終了後、80代の女性が「吉本ばなな以降の若い人の作品は人間のとらえ方などが自分と違い、読む努力をしても読めない」と訴えた。根本さんは「新しいものを読んでわからない、合わないのは当たり前。自分が良いと思うものを再読した方が、作品の良さもわかります」。三田さんも「文学は多様化している。面白いと思うものを読めばよいのでは」と答えていた。