猊鼻渓名物の舟下りの船頭さんは女性だった。船頭18人のうち女性は2人という。舟下りといっても、まずは上流へとさおを差す。舟べりをカルガモが数羽伴走し、水面下をウグイの群れがついてくる。船着き場から少し歩いた先で、高い絶壁が長く広がる対岸の大猊鼻岩を眺める。
下りは船頭さんが歌う「げいび追分」が渓谷に響いた。「あ~、う~と母音をとにかくのばすのが特徴」と船頭さん。天然のエコー装置が絶妙に効き歌声を引き立てる。見頃が11月初旬ごろになりそうという紅葉はなくても十分に楽しめる往復90分だった。
猊鼻渓からは、ユネスコの世界文化遺産に登録された毛越寺(もうつうじ)と中尊寺(ともに平泉町)を巡った。毛越寺までは車で30分足らず。海を表し、浄土庭園の中心となる大泉が池を一回りする。遺された基壇や礎石に平安の大伽藍(がらん)を想像する。曲線を描く砂地の洲浜(すはま)や荒磯を思わせる出島と立石(たていし)は海浜の趣を表現しているという。
中尊寺へは「歩かなくてもよいように」と坂の上駐車場に車を入れた。奥州藤原氏の遺した文化財を収める讃衡蔵(さんこうぞう)を見学してから国宝・金色堂へ。堂全体を金箔(きんぱく)で覆い、極楽浄土を現世に表していて、中尊寺の創建以来、現存する唯一の遺構というが、仲間の間では「なぜ壊されたり盗まれたりせずに残ったのだろう」との話題でひとしきりにぎわった。
帰りは月見坂を下った。弁慶最期の地となった衣川古戦場が見えるはずと、昔の記憶を頼りに物見の場所を探しながら中尊寺を後にした。