西東京市の後期高齢者仲間でつくる旅行会の4人が10月9日、群馬県渋川市の伊香保温泉に1泊2日の日程で出かけた。
東京・池袋から旅館まで往復バス代込みで1人1万3130円。経営破綻した国内の多くのホテル・旅館を再生させ運営する会社が、旅行会社を介さずに直接通信販売することで、割安感のある料金になっているそうだ。インバウンド(訪日外国人)ではなく日本人客のリピーター増が狙いという。
池袋を出発したバスは伊香保温泉に4つある同じグループの旅館・ホテルに予約客を運ぶ。私たちの旅館までの所要時間は4時間。途中、高坂サービスエリア(SA)での小休止と正午過ぎの昼食休憩がある。昼食は食堂と土産店を兼ねる大きな施設で、食事は水沢うどんが売り。代金は自前だ。私は赤城牛肉カレーうどん(1100円)を選んだ。
旅館では午後3時のチェックインまで1時間以上待たなければならなかった。時間の融通が利かないのは人手不足が理由かと考えたが、布団を敷いておいて客を迎えるのがこの旅館のサービスと後で知った。そこまでやる必要があるのかな。私以外の3人はチェックイン後、無料のカラオケを1時間楽しんだ。
部屋に入って驚いたことがいくつかあった。一つはトイレの場所だ。玄関ドアを開けると、右側に床より一段高い所に結構重い引き戸があり、開けると洋式便座が設置されている。外から急いで来たときは便利かもしれないが、部屋から行く場合は、上がり框(かまち)を下りてスリッパを履き、数歩先で今度はトイレ内のスリッパに履き替えなければならない。足腰の筋肉が衰え、平衡感覚が怪しくなり、トイレが近くなる高齢者には危険がいっぱいだ。場所を移すかバリアフリー化は急務だろう。
カップ・グラス類は洗面所に紙コップが人数分の2つあるだけだった。客が帰れば捨てればよいだけの省力化が目的か。紙が薄く、何度も使うのがためらわれた。
食事は夜、朝ともバイキング。ぜいたくは望むべくもないが、料理の品数は多く郷土色もあってみんな満足そう。生ビールや地酒が無料で飲み放題なのも好評だった。
最上階の7階にある展望風呂は内湯、露天とも「狭い」「ぬるい」の声があった。私はぬるめ好きなので1時間ほどの長風呂となり、体の芯まで温まった。床が滑りやすいので高齢者は特に注意が必要だ。
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私たちの旅館は、伊香保温泉を象徴する石段街まで1、2分と近く、全365段の石段の上の方にあった。出発時の大雨は到着前に上がり、私は入室できるまでの待ち時間で石段街に出て石段を上りきった所にある伊香保神社を見に行った。行き交う観光客に欧米人の姿は見られない。
翌日はチェックアウトの手続きをした後、みんなで同じコースをたどり、神社裏からさらに歩いて湯元源泉地へ向かった。源泉地は確認できなかったが、紅葉橋があるように沿道はモミジの木が目立ち、紅葉の美しさを想像した。
屋根で覆った飲泉所で流れっぱなしの「水」を備え付けのカップで口に含み、吐き捨てた。帰宅後、インターネットで見つけた訪問者のブログに「口の中を切って血が出たときの味」と書いてあり、うまい表現に感心した。
神社には戻らず、分岐する「湯元通り」を下った。建物の一部が朽ち落ちているなど廃業して長い時間がたったことをうかがわせる光景がしばらく続き、観光地の栄枯盛衰を考えさせられた。
石段街と旅館前を横切り、車道を下って伊香保ロープウェイの乗り場・不如帰(ほととぎす)駅へ。運賃は往復830円。定時は15分置きの運行だが、5分早く臨時便が出るという。到着便は満員だったが、見晴(みはらし)駅へ向かう便は私たち4人とカップル1組だけ。
4分間の眺望を楽しみ、標高955メートルの見晴駅に降り立つと、すぐそばに柵を巡らせた小さな展望台があり、それなりの景色が広がる。
もう少し足を延ばし、ベンチなどが整備された展望台に上がる。手前に伊香保温泉街、遠くは右に筑波山や赤城山、左に谷川岳や仙ノ倉山をパノラマで望むことができる。カップルは「輝望(きぼう)の鐘」を鳴らす。
帰りのロープウエーに乗る段になって私は切符をどこにしまったのか思い出せず、ポケットやバッグの中身を取り出すなどアタフタする羽目に。片道500円の切符を買おうと思った矢先、買わずに済むことになり、みんなそろって1便遅れで乗車。のちに切符はシャツの胸ポケットから見つかり、あらためて迷惑をかけたことを謝った。何度も交通系カードしか入っていないのを確かめたはずなのに…。
下山して昼食をとる食堂を探すと、閉店しているところが多く、意外と難航。偶然にも石段下部で水沢うどんで有名な店の支店を見つけ、マイタケや野菜の天ぷら付きざるうどんに舌鼓を打った。
腹ごなしは射的や輪投げなど昭和レトロの遊びにやる気満々の仲間がいて、なぜか周辺に多い遊技場をはしごする。遊技場は宿泊施設の1階部分を改装したと思われる。
70代後半1人と80代3人のグループの観光旅行は体力的にここまで。自家製のガラス細工の店などをのぞきながら宿泊した旅館に戻り、ロビーのソファーでまどろみつつ帰りのバスを待った。