病後の免許更新 険しい道のり

 怒涛(どとう)の3日間だった。その日の出来事をその日に記録する気力が全く湧かないほど、他者に押し流された。

 

 始まりの8月24日は武蔵野赤十字病院の予約診療日。脳出血による入退院から2度目の通院だ。前回の診療で積み残していた眼科の検査が午前10時から予定されていた。

 

 眼圧や視力など専門の機器に次々と移り、最後に視野を調べた。視野検査は、薄明るい円の中心を凝視しながら、360度の視界のどこからか現れて動く光の点が見えた瞬間にレバーのボタンを押す仕組み。

 

 外周から現れる光の点は大きさも明るさも一定ではなく、中心に向かうものばかりとは限らないようだ。片目につき何十回も出現するので集中力が切れそうになるが、気を抜くと発見が遅れる。

 

 検査データはすべて眼科医師のもとに集まる。医師はモニター画面を見せ、左目は外縁部の左側の一部が見えていないと言う。ただし、生活するのには「眼科的に問題はない」。今後、見え方に変化がなければ再診の必要もないと、ありがたいお言葉をいただいた。

 

 午後に予定されていた眼底検査も繰り上げて行ってもらえ、午後2時からの脳外科受診まで2時間の余裕ができた。

 

 いったんコミュニティーバスでJR武蔵境駅に戻り、目星をつけていた近くのちゃんぽん店で昼食。オーソドックスな白ちゃんぽんを選び、味、量ともに満足。

 

 時間が余り駅周辺の大型商業施設に入ったが、当てのないテナントめぐりに疲れを感じ、再びコミュニティーバスで病院へ。30分早く脳外科外来の手続きをしても、先約の患者に時間がかかったり、入院患者の割り込みがあったりして1時間以上待ち、揚げ句、「金科玉条的に言えば、運転は勧められません」。前回聞いた悪魔の判決が返ってきた。

 

 「眼科の先生は…」と半ば絶句状態で訴えると、運転免許の更新では、脳卒中の病歴があれば警察、厳密には公安委員会は脳外科の判断を求めてくるが、医師は運転の可否まで診断することはできないと言う。そこで運転不適格と判断されるの可能性が高くなると諭すようにのたまう。

 

 視野欠損どころか目の前が真っ暗になりかけたとき、「病院側が運転可能を後押しできる方法がある」と番外のリハビリ科に回してくれた。

 

 リハビリ科の医師は、運転免許の適格条件で、日本は欧米に比べて病気の後遺症の基準が整備されていないことを指摘。そして武蔵野赤十字病院として独自に基準作りを検討する方針であることや、現状では唯一、埼玉県にある公的リハビリ機関が運転免許取得の手助けをしていることを説明してくれた。

 

 この日は私も態度を決めきれず、自宅で後期高齢者の免許取得条件を研究し、次回には自分なりの結論を伝える約束をした。

 

 「酔っ払いが俺は酔っていない」と言うがごとく、認知症の高齢者も「自分は認知能力になんの問題もない」と盲信して運転しているのではないかと考えるとゾッとする。私も、日常生活では目に何の後遺症もないとはいえ、きちんと医療機関でリハビリ訓練を受け、運転可のお墨付きをもらうのが正しい道と思える。