ラワンブキに水害の痕跡 6月16日(金)

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畑から運び込まれたフキを選別、箱詰めする建物


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広大なフキ畑で収穫作業が進む


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観光用のラワンブキ畑は水害に見舞われ立ち入り禁止

 

 足寄で一番の目的は巨大なラワンブキを見ることだ。6月のラワンブキの収穫作業は十勝の風物詩。道内の新聞やテレビで毎年報道される。

 

 足寄町商工会発行の観光マップの表紙は、同町出身の歌手・松山千春さんが、3メートルもあろうかと思われるフキの林立の前で1本を手にしてほほ笑んでいる。

 

 ツーリング出発前に朝日新聞夕刊1面(東京本社版)は「北の味覚 ぐんぐん」の見出しで、ラワンブキの収穫が本格的に始まったことを伝えていた。その写真は、人の背丈を越えるフキの「密林」の中で、作業員が鎌で刈ったもの質を見定めるもので、横2段の扱い。「時期やよし」と胸が高鳴ったのを思い出す。

 

 ところが、宿の女将に聞くと、昨年の大雨被害で「ラワンブキは駄目なはず」と言うではないか。半信半疑の心持ちで6月15日午前9時前、国道241号から道道に入る「螺湾(らわん)」地区を目指した。

 

 30分余り走ると「ラワンブキ圃場(ほじょう)」の看板柱があり、駐車場も備わっていた。圃場に向かうと、掲示板の貼り紙に、昨年8月の相次ぐ台風で流木や土砂をかぶって生育が悪く、見栄えのする背丈になるまで数年かかりそうと記され、自生ブキを保護するため立ち入らないよう求めていた。

 

 なるほど、通路とみられる小さな木橋には木の根や表皮のはがれた枝などが引っ掛かったままで、フキの群落は遠目には膝の高さまであるかどうかの状況だった。

 

 しかし、被害を受けていない地域があるに違いないと思い、螺湾川の上流の上螺湾へと道道を進んだ。牧場をいくつか過ぎると右手にラワンブキの保護区域を示す立て札を見つけ、オートバイを止めて川辺へ下りた。

 

 道路から見るとわからないが、近づくと確かに大人よりも背丈の高いフキがごっそりと生えていた。自生地なのか、栽培用の「畑」なのかは確かめようがなかったが、目的達成の感慨に浸りながらセルフタイマーで記念撮影し、いったん足寄の市街地へ戻ることにした。

 

 来る途中にあった「シオワッカ」という特別な地形の場所と、「あしょろ銀河ホール21」と長い名前の道の駅を見るためだ。

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 シオワッカは、冷泉に含まれる石灰が堆積してドーム形に成長した奇岩。巨大などら焼きとでも形容したらよいか。季節によって生成される炭酸カルシウム系の鉱物が違うそうで、町の文化財(天然記念物)に指定されている。宿の女将ら町民の何人かに聞いても、存在を知っている人がいなかったのは、ちょっと不思議。

 

 道道から国道に戻ると、あら、道路端に「ラワンブキ販売」の旗が並んでいる。旗を頼りに脇道を進むと、「ラワンブキ畑」と呼ぶにふさわしい大きな栽培地が広がり、四角く刈り取った先に立ちふさがるフキの壁に向かい、男性作業員たちが鎌を振るっていた。

 

 来たっ、ここが新聞に出ていた所だ。ラワンブキだから「螺湾」と思い込んで先を急ぎ、はるか手前にある旗が目に留まらなかった注意不足を嘆いた。ここは市街地に近い「中足寄」地区。新聞記事を読み直すと、現場を「足寄町」としか書いていない。たった3文字の節約。不親切だと腹が立つ。空はカンカン照りになっていた。

 

 刈り取り風景をひとしきり眺めさせてもらい、畑を回り込んで選別・箱詰めの作業小屋を見せてもらった。こちらは女性が多い。70センチに切りそろえて3キロ入りの箱に詰める。単価は1キロ290円。ゆうパックで大量に送るため、郵便局の赤い軽貨物車が待機する。値段などを聞いていると、「社長さんに聞いたら」と言う。そばにいた永井農場の代表・永井研一さんがいろいろな質問に丁寧に答えてくれた。

 

 フキは自然に増えるのではない。フキノトウから種を採り、20センチほどに育った苗を農協から買って植える。植えて2~3年で収穫する。根で成長したものは「二番ブキ」という。苗は町内の農家にしか販売しない。いわば門外不出だ。大きくなる理由は「品種なのかもしれないが、川の水質にもあるのではないかと言われています」。

 

 フキ専業農家は永井さん1人だけ。二十数年前、父の代に30アールから始め、今は5.5ヘクタールに。収穫も除草も手作業に頼らなければならないので人件費がかかり、「経営は楽ではない」という。全町的な作付け規模の拡大はなかなか進まないそうだ。作柄は、昨年の台風や大雨の影響や5月の低温で「大きくならない」と話した。

 

 なじみの居酒屋に送ろうかと考えたが、「調理に手間のかかるものはおことわりよ」と女将が常々口にしているのを思い出し、結局、しょうゆ漬けなどすぐ食べられる数種の加工品の小袋を道の駅の物産館で調達。私はラワンブキの天ぷらと地元の牛乳で昼食とした。

 

 道の駅からは国道を本別まで戻り、北海道横断道(黒松内釧路線)で釧路へ。釧路外環状道路は寒さで身が縮んだ。まだ午後2時すぎなのに、気温は14度と表示されていた。釧路駅の近くのホテルにチェックインし、釧路市民の台所ともいわれる和商市場の中を一回り。タコの卵(タコマンマ)の軍艦巻きにひかれ、場内のすし屋で早い夕食を取った。

 

 この日の走行距離は171キロ。