「現世利益むき出し?」 金光明経を学ぶ

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 武蔵野大学仏教文化研究所主催の連続公開講座「大乗経典の魅力を語る」の3回目が8月3日、同大武蔵野キャンパス(西東京市)であり、日野慧運・同大人間科学科講師が「現世利益とさとり―『金光明経(こんこうみょうきょう)』の世界―」と題して話した。

 

 金光明経は4世紀ごろインドで成立した大乗仏教経典。現代ではややマイナーになった経典だが、日本の古代には隆盛を誇った。古代から中世にかけてはチベット、モンゴル、中国などアジアのほとんどの国々に渡り、受け入れられた。

 

 今に伝わる本では、最も短い漢訳のものが最も古く、サンスクリット原典に近いと考えられる。金光明経の原典に新しい要素や考え方が書き足されることで、伝本の数も中身も増えていく。

 

 書き足しによる内容の変化では「儀礼や呪文の増加」が大きな特徴。ヒンドゥー教の神々や呪文、賛歌を取り込みながら密教経典の性質を帯びていく。一方で、仏の三身説など中期の大乗仏教独特の教理も盛り込まれていった。

 

 日野氏は金光明経の内容からの魅力について、「懺悔(ざんげ)の思想」「大乗仏教の綱要書」「護国思想」の三つを挙げた。

 

 懺悔品(ほん)は、前世に悪行を重ねても、全てを告白(ざんげ)すれば罪は洗い流されて仏陀(ぶっだ)になれるという思想を説く。経の名前はこの章に由来し、インドや中国でも古くから経の中核と考えられたはずだという。

 

 2番目の魅力は、釈迦如来の無限の寿命(法華経)や空の思想(般若経典)など大事な教理が有名な大乗経典から「いいとこ取り」しており、長い経典を読まなくても、おさらいとしてまとめられたこのテキストで十分という便利な使い方をされたとみられることだ。

 

 さらに、金光明経がアジア全域に広まったのは、現世利益、とくに「護国」の教説によるという。四天王が登場する章(四天王品)では、金光明経を信仰すれば国の防衛がかなうと表立って国レベルの現世利益を説いた。戦争の時代に、中国、日本とも王権主導で入ったという。

 

 仏陀は「護国」に興味がないはずで、まして戦争のような荒事を引き受けるはずもない。それをもともとヒンドゥーの神々である四天王が引き受ける。日野氏はそんな不思議を指摘し、弁才天や吉祥天などの神々の登場と合わせて、金光明経には「むき出しで現世利益をかなえる要素が入ってきた」と述べた。